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【インタビュー】中国武術茨城推進協会~中国武術と中国語を入り口にした文化交流を

 中国武術茨城推進協会は、中国武術を広めるため、学校やイベント等で、身体を動かしながら中国語を教える活動をされています。会長の川又敏郎さんは、元茨城県職員。茨城県上海事務所長(2009年4月から2012年3月まで)を務め、中国進出企業の活動支援、民間交流促進、茨城空港就航調整等に携わっていらっしゃいました。髙井英花さんは、中国遼寧省瀋陽市出身。1999年に語学留学で来日。日本人の旦那様と出会い2004年から水戸で暮らしています。お二人に、協会のこれまでの活動と、中国武術と中国語への想いを伺いました。


母国の言葉や文化を、自分の子どもたちに伝えたいという想いがスタートです。

川又 もともとは、髙井さんがずっとやっていた活動の延長なんです。

髙井 「外国人親子国際交流ネットワーク」という名称で活動していました。自分の子どもが小さかった頃に、ここ(水戸市国際交流センター)に定期的に来て、ほかの中国出身の親たちと一緒に、どうやったら、母国の言葉や文化を自分の子どもたちに伝えていけるか、色々と工夫していたんです。そのなかで、中国武術なら、体力づくりと語学取得が同時にできることに気づいたんです。中国にルーツを持つ子どもに限らず、周りのお友達も一緒に中国武術を習えば、お互いの国を理解することにもつながります。中国武術を、身近な国際交流のスポーツとして、幅広い方々に伝えるために「中国武術茨城推進協会」を設立しました。

川又 お子さんふたりにも、太極拳を、小っちゃい頃から教えていましたよね。

髙井 そう、無理やりやらせました(笑)。今の団体にしたのは、2019年の茨城国体で、武術太極拳が公開競技(*1)として採用されたこともきっかけです。国体に参加するには、何らかの団体に所属することが必要だったので。子どもたちを国体選手にしたかったんですけれど、だんだんと大きくなったら興味もいろいろなことに向いて、太極拳を続ける気がなくなってきたみたいで。

川又 イベントは、毎年あちこちでやっていたんですけど、コロナになって減ってしまったんです。

髙井 コロナの前は、ずいぶん色々なところで、中国武術と中国語を合わせて体験してもらう催しをやっていたんです。学童クラブに出向いたり、「水戸まちなかゼミ&まちカル(*2)」で講座を開いたり、中国の先生を招待して一緒に講習会をやったり。水戸の少年自然の家でも、講習をやっていました。

身体を動かしたり歌ったりしながら、言葉を覚えていくのは、とてもいいことだと思います

髙井 子どもは、中国語だけを教えようとしても、なかなかじっとしていられないですよね。学童クラブに出向いたり、幼稚園や小学校に派遣されたりした時には、中国武術の基本の動きをやりながら、型の名前を教えたり、絵を見ながら数字を指文字で作ったりするんです。そうすると、子どもたちは15分くらいの間に、けっこう中国語を覚えちゃう。県内の高校で中国語講師をやっていた時にも、授業の一環として、中国武術で身体を動かしながら中国語を覚えるという方法を取り入れていました。

中国武術の
基本の型と名前
幼稚園でのカンフー体操
&中国語体験
高校の中国語授業での
カンフー体操体験

あと、語学を身につけるという観点で言うと、いろんな国の言語に触れると、耳の柔軟性が高まるというか、発音を聞いた通りそのまま真似できるようになると思います。日本語の単純な音しか知らないと、外国語を、カタカナで発音してしまうんですよね。聞き慣れない音は、自分で発音できないというか。

それで、子どもたちには、日本の童謡を中国語バージョンにして歌ってもらっているんです。「ぞうさん」とか「チューリップ」とか。小さい子はすぐに覚えちゃいますね。意味にこだわらずに、聞いたものをそのまま真似して、音だけで楽しんでくれる。遊び半分でも、いつのまにか発音を身につけられるのがメリットです。大人は、最初はカタカナを読みながらでも、歌っているうちにだんだんに発音に慣れてくると思います。

上の二次元コードから、髙井さんが中国語で歌っている童謡の音源を聞くことができます

中国武術は、身体を整えて、身体の一体感を鍛えることを目指しています

髙井 中国武術は、身体の一体感を鍛えるというか、身体をひとつのまとまった状態に持っていくことを目指しているんです。身体のどこか1か所に刺激を受けると身体全体が反応する状態になるように、身体の内部の筋膜や腸腰筋などを整えていくんです。筋肉を使うのではなくて、筋肉の力を使わないで反応できるようにするのが最終の目的です。あとは、骨盤や肩甲骨がすごく大事。ここの動き具合で実際の力の差が出てきますね。

川又 主な効用として、「気」と「血」の流れをよくして、と言いますね。でも説明するのは、なかなか難しいんですよね。決まった型から入るので、まずはやってもらって体験してもらって、ですね。

髙井 みんな「元気」のために運動しているんだから、元気に効果があります、と言うしかない(笑)。中国武術には太極拳だけではなく、いろいろな流派があります。今は、体操みたいに動作の見栄えをよくする方向にも進んでいるんです。でも基本の動きは同じですので、それを積み重ねれば、健康につながっていくと思うんですけれど、それをどうやって伝えるかというのは、なかなか難しいですね。

カンフーは超能力?

髙井 カンフーって言うと、みなさん(映画などで見る)あの動きを指すと思っているようですが、実は「カンフー」っていうのは、元々は中国武術における「身体能力が高い」ということなんです。脳が考えずに、身体が先に反応する。その反応が早い、つまり反射神経が高いということ。さらに、相手にちょっと触っただけで、どこを狙ってくるかわかるような感覚を磨くには、精神力とかなりの集中力が必要なので、ちょっと大げさに言うなら…いいえ大げさでもないんですけれど、言い換えれば超能力みたいなものかなとも思うんです。他のスポーツ、たとえばゴルフでも、上手な人、強い人のことを「あの人はカンフーがある」って言うこともあります。

中国武術も中国語も、高校生を対象にした講座を考えています

髙井 子どもたちが、中国武術に触れる機会を、もっと作りたいですね。それで、「面白い!やりたい!」と興味を持ってもらえればいいかなと。茨城県内では、ジュニアの中国武術の団体は少ないし、競技人口自体が少ないので、頑張れば県大会や全国大会に出られるチャンスもあります。アジア大会も世界大会もありますし。今、中国語と合わせた講座や体験会の企画を考えています。小・中学生は親の影響があると思うんですが、できれば、これからは高校生を対象にやってみたいですね。自分の意志がはっきりしていて、やりたいという若い人に伝えたいです。

川又 成長していく過程で、メディアで目にする文化的なものの量ですが、たとえば韓国と比べると中国のドラマは少ないですけれど、ビジネスの分野では中国語の需要は変わらずに多いし、中国との付き合い方や文化の背景を知っておくことは、日本人として必要ですよね。なにしろ、漢字を使ってコミュニケーションができるんだから。

髙井 高校生は吸収力があるし、少しでも中国語に触れておくと、大学に入った後でも役に立つと思う。

川又 間口を広げてあげる活動としては、私たちの団体のような活動は面白いと思います。

髙井 高校生にとっては、将来につながるような、視野を広げるような内容じゃないとつまらないのでは、と思うんです。それで、中国語と漢文をリンクさせたような、中国語の講座をやってみようかとも考えているんです。中国語は、漢文の勉強のプラスになりますよね。なぜ返り読みをするのか、なぜ述語を先に言うのかとか。漢詩は、簡略化した表現で、漢文に似ていますし。高校生向けの中国語講座「漢文を中国語で読む」をやってみたいです。

川又 中国と日本の同じ部分と違う部分を知れば、世の中が広がると思う。私たちの活動は中国語と中国武術を入り口にしている文化交流ということになりますが、のぞいてみるだけでも面白いと思いますね。

(*1)正式競技以外に、普及およびスポーツ振興の観点から、一定の条件下で実施される競技。武術太極拳は、19年から26年まで、連続して8年(回)実施されることになっている。
(*2)商店街(水戸駅~大工町)の店主などが講師となり、様々な分野の専門家として講座を開催する、期間限定のイベント。水戸商工会議所と泉町二丁目商店街振興組合が主催。

 ビジネスでの需要が年々高まっているものの、実はあまり学習する機会が少ない中国語。協会の活動を通して、より多くの子どもたちが、楽しく中国語に触れる機会が増え、世界に向ける視野が広がればいいなと思いました。

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